「日本人は何を捨ててきたのか」(鶴見俊輔・関川夏央著、ちくま学芸文庫、2015年)

書籍+移住への視点

思想家・鶴見俊輔氏と作家・関川夏央氏との1997年と2002年の対談

1922年生まれ、高校を教師を殴って辞め、15歳で渡米し、19歳でハーバード大学を卒業後、「負けるときに負ける側にいたいと思っ」て日本へ帰国した思想家・鶴見俊輔氏と1949年生まれの作家・関川夏央氏との対談。
二人の生き生きとしたやりとりの中で、鶴見俊輔氏から語られる、他の誰からも聞いたことのないような考えが、とてもおもしろい。
例えば、1997年の対談で、日本の人口減少について、次のように語られている。

関川)鶴見さんは大分前、七十年代の終わりぐらいだったでしょうか。日本の人口がもっと減れば日本は住みやすくなるだろう、半分ぐらいになるとちょうどいいんじゃないかとおっしゃっていましたね。現実にいまは人口停滞状態に入って久しいですね。まだ微増はしてますけれども、厚生省では人口予測の下方修正をせざるを得ない。間もなく人口減少社内になりますが、古典的な考え方では人口は活力です。人口減少だけではなく、高年齢化が異常な速さで進む。わたしたちが実はその元凶なんですけれども、やがて人口の三十パーセント強が六十五歳以上になるでしょう。それでも、いい世の中になるのでしょうか。社会福祉の負担は重くなるでしょうし。

鶴見)敗戦後の思想達成の中の最良に近いものが人口の制限だったと思いますね。政府が音頭を取るのでもなく、国家権力によって強制するのでもなく、子どもの数が減ってきた。これが日本による思想的達成なんです。このことを成し得たというのは偉大なことです。連句の力とこの人口を抑える抑止力とは繋がっています。

関川)連句と繋がっている……。

鶴見)そうです。これは日本人の大衆的な思想の力なんです。これはいいですよ。やがては、老人人口が増えていくことによって、どんどん金儲けしてもっといい生活を、という動きは減速されます。老人が単純労働について、それを生かせるような場所を工夫するようになるでしょう。技術がそのように使われるようになる、それが未来社会です。

p 070 第一章 日本人は何を捨ててきたのか

関川)でも、わたしたちはいわゆる団塊の世代で異常に数が多いんです。一年間に、二百七十万から二百八十万人生まれていて、いまだに人口構成グラフでは突出しています。ところが、いまは一年に百十万人以下しか生まれない。この差が大きすぎはしないか。一人で三人を支えるとまではいいませんし、老人は自活すると思いますけれども、急激すぎはいませんか。わずか四十五年でこうなってしまった。

鶴見)急激な変化です。それこそ技術革新を必要とする重大な変化です。

関川)重大です。革命ですよ。

鶴見)老人が老人を支える。この道を開くことです。それは、戦争のあの時代に二十歳までしか男は生きられないということになって、子どもが疎開して頑張ったでしょう。それと同じじゃないですか。子どもも頑張り、老人も頑張る。

p071 第一章 日本人は何を捨ててきたのか

関川)なるほどね。わたしも半分は、いいなあと思うのですが。
鶴見)未来はあるでしょう……。
関川)ただ世の中のみんながものすごくゆっくり歩くようになるだろうと想像すると、わたしどもは高度成長の子ですから、一抹のさみしさはあるという感じですが。
鶴見)日本の重大な芸能遺産は、例えば、能なら能でね。能は、ものすごくのろのろのろのろ歩いているじゃないの。
関川)はいはい。
鶴見)その歩き方は、別の時間を作り出すでしょう。ああいうものを範型として持ち、それをいまも失っていないということは大したことじゃないですか。
~ 引用略 ~
鶴見)日本がゆっくり歩む文化の道を開けば、自ずから韓国も中国も日本をもう一度じっとみるようになるでしょう。世界はそういう構造になっているんですから。大体、今の六十億という人口は地球にとって無理なんです。六十億はすぐ百億になる。大変なことです。
~ 引用略 ~
鶴見)ええ。だけど顔のしわが立派だと私は思う、そういう別の眼差しを育てていくようになるといいのではないですか。能、狂言はそうでしょう。かつてはそうであったし、これからもそういう方向に、つまり、一八五三年以前の価値を少しは取り戻すことが重要だと思いますね。

p073 第一章 日本人は何を捨ててきたのか

ここでの1853年は、黒船が来た年、嘉永六年。(p027)

人口の減少について考えるときには、このくらいの時間軸で捉えて、考えることが肝要なのではないか、そんなことに気づかされるやりとりです。

プロフィール
藹然として移住に挑戦中

これまでの経験+新しい学びで地方都市 長崎への移住と不動産業の開業を目指しています。私が長崎での住まいや仕事を検討するために確認したデータや考え方、実際に移住する中で得た知見や経験を掲載します。同じ長崎や地方都市への移住を考えている方のお役に立ったり、情報交換ができると嬉しいです。

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